ユルスナールの靴 須賀敦子

エッセイ・その他

きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていないのは、あるいは行くのをあきらめたのは、すべて、じぶんの足にぴったりな靴をもたなかったせいなのだ、と。

『ユルスナールの靴』 須賀敦子

プロローグでは、須賀敦子の靴の思い出から始まります。幼い頃に履いていた足に合わない下駄、シスターが履いていた黒曜石のような美しい靴、戦後に父が買ってくれた――しかし、一度も外出することなく寄宿舎から消えてしまった黒い靴。ショーウインドウで見て、焦がれる程に憧れ欲しがった赤い靴。

須賀敦子の最後の作品『ユルスナールの靴』は、フランスの作家ユルスナールに惹かれた彼女が、ユルスナールや作中人物の精神の遍歴を自らの生きた軌跡と重ね、パリ、アレキサンドリア、ローマ、アテネ、マウント・デザート島へと訪れていきます。

冒頭に『行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていないのは、あるいは行くのをあきらめたのは、すべて、じぶんの足にぴったりな靴をもたなかったせいなのだ、と。』ありますが、それでも彼女は上記のように多くの土地を訪れています。

私はユルスナールの作品は未読なので、あまり共感出来ないのが残念です。

 だれの周囲にも、たぶん、名は以前から耳にしていても、じっさいには読む機会にめぐりあうことなく、歳月がすぎるといった作家や作品はたくさんあるだろう。そのあいだも、その人の名や作品についての文章を読んだり、それらが話に出たりするたびに、じっさいの作品を読んでみたい衝動はうごめいても、そこに到らないまま時間はすぎる。じぶんと本のあいだが、どうしても埋まらないのだ。

『ユルスナールの靴』

今の私にとって、ユルスナールの作品とはまさにこういうことでしょう。

この本を読むと、旅人に憧れていた小学生くらいの私を思い出します。

行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていないのは、そして諦めてしまったのは、私もじぶんの足にぴったりの靴を持っていないからなのでしょうか?いつかは私にも、じぶんの足にぴったりの靴を持てるときが来るのでしょうか。

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