”文学少女”と穢名の天使 野村美月

小説

あらすじ

文芸部部長、天野遠子。物語を「食べちゃうくらい」愛しているこの“文学少女”が、何と突然の休部宣言!? その理由に呆れ返りつつも一抹の寂しさを覚える心葉。一方では、音楽教師の毬谷の手伝いで、ななせと一緒に放課後を過ごすことになったりと、平和な日々が過ぎていくが…。クリスマス間近の街からひとりの少女が姿を消した。必死で行方を追うななせと心葉の前に、やがて、心葉自身の鏡写しのような、ひとりの”天使”が姿を現す―。

『悲しき玩具』『一握の砂』石川啄木

けどね、人は、甘い本ばかりめくっていてはダメなのよ。ときには石川啄木の『悲しき玩具』や『一握の砂』を、じっくり読むことも必要なの。

そう……、千切りにした大根と人参のなますを、どんぶりに山盛りにして、延々食べ続けるように――お酢の染みこんだ大根の儚さと人参の固さに人生の辛酸を感じながら、そこに混ざるほんの少しの砂糖の甘さに勇気づけられるように、噛みしめ、噛みしめ、食べるのよ。

『大草原の小さな家』

『若草物語』

『のっぽのサラ』

『クリスマス・キャロル』ディケンズ

「ディケンズの『クリスマス・キャロル』は作りたてのミートローフのようね。口当たりがよくて、小さな子供でもどんどん食べられちゃうし、大きくなってからも、あたたかくて、懐かしくて、美味しいの。

セロリや人参やタマネギ、丸ごとの卵やオリーブの実を混ぜて、オーブンでふんわり焼き上げたミートローフを、ナイフで切り分けて、銀色のフォークで小さく切って、少しずつ味わうような感じなの。

普段は苦手なセロリや人参が、優しくやわからく肉汁にからみ、ささやかな幸福感に胸がいっぱいになるのよ。オリーブの、ちょっとしょっぱい、癖のある風味も、とても美味しく感じられるの」

『椿姫』デュマ

まるで高級なビターチョコレートの中に、純度の高いウィスキーをつめたボンボンみたいに、甘くて華やかで、ほろ苦くて、切ない味がするの」

『三銃士』

『モンテクリスト伯』

『チャタレイ夫人の恋人』ロレンス

『瓶詰地獄』夢野久作

『スリーピング・ビューティー』

『たけくらべ』樋口一葉

『黄色い部屋の謎』ガストン=ルルー

『愛の一家』

『オペラ座の怪人』

まるで、ねっとりと舌にまとわりつく濃厚なフォアグラが、華奢なグラスに注がれた冷たいペリエによって、一瞬にして洗い流され、清められ、高められるように」

『谷間』チェーホフ

感想

この巻でようやくななせを好きになりました。 傷ついても親友を助けたいと願う彼女たちの友情はとても美しかったです。 平凡なラウルではなく、醜くても化物でもファントムになりたかった彼等には共感する部分もありました。と同時に何気ない日常がかけがえのない宝物であることもわかっているので、苦い気持ちになりました。 心葉君が携帯を使って、ななせに話しかけるシーンにはキュンとしちゃいました。

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