あらすじ
「これは食べ物への冒涜よっ!」物語を食べちゃうくらい深く愛している”文学少女”天野遠子。彼女が、図書館の本のページが切り取られていることを発見してしまったため、文芸部の後輩井上心葉は、またしても振り回されるハメになったのだが……。 学園中が文化祭の準備に沸く陰で、追いつめられ、募っていく狂気。過去に縛られ立ちすくむ”愚者”に、”文学少女”が語る物語とは――?
本
『野菊の墓』伊藤左千夫
「夕日に照らされた畦道で、茜色に染まった杏の実を、指先で優しくつまんで口に含み、そぉっと歯を立てる感じなのっ。薄い皮が破けて、やわらかな酸味と幸せな甘さが舌にじんわり染みこんで、切ない苦さに、胸がきゅっと締めつけられるのよ!
『舞姫』森鴎外
『伊豆の踊子』川端康成
『たけくらべ』樋口一葉
『一房の葡萄』有島武郎
『蒲団』田山花袋
『愛と死』武者小路実篤
『城の崎にて』『小僧の神様』志賀直哉
『極楽とんぼ』里見弴
『生まれ出ずる悩み』有島武郎
志賀直哉の作品が、名人が打った喉越し滑らかで腰のある究極の蕎麦なら、有島武郎の作品はレモンをかけていただく、ねっとりとした生牡蠣。里見弴は表面がつるつる滑る里芋の煮っ転がしみたいな感じなの。
言うなれば武者小路の作品は、一流の料亭でいただくお豆腐料理のようなものよ。食感はさっぱりあっさりしていながら、大豆の風味が絶妙の甘さとコクをかもしだし、あとを引くような苦りがあって、最後の一口まで食べ終えた瞬間、あぁ、美味しかったなぁって、溜め息をついてしまうのよ。」
『友情』武者小路実篤
『ブラームスはお好き』フランソワーズ=サガン
「サガンは洗練された都会の味ね。フランス料理のオードブルに出てくる鴨のテリーヌみたいに美しく、ひんやりして、優雅な味わいなの。
テリーヌの繊細な舌触りと、鴨の野趣を楽しみながら、横に添えられた琥珀色のコンソメのジュレが、口の中で複雑に震える感触に、思わず胸が締めつけられてしまう感じなのっ。
『ああ無情』
『若草物語』
『エルマーの冒険』
『モチモチの木』
『月夜のみみずく』ジョイン=ヨーレン
『大造じいさんとガン』椋鳩十
『宇宙人の宿題』小松左京
『海雀』北原白秋
『蜜柑』芥川龍之介
『桜の園』チェーホフ
「これはきっと、トラヴァースの『メリー=ポピンズ』みたいな味ね! 甘くて、さくさくしていて、トッピングのアーモンドが香ばしいの!」
「こっちはウェブスターの『あしながおじさん』みたいな味! レモンの香りが爽やかに舌の上に広がるの! これはバーネットの『秘密の花園』みたいな味ね! 薔薇色のジャムが、甘くって、酸っぱくて、とてもロマンチックなの。こっちの紅茶の葉っぱ入りのクッキーは『不思議の国のアリス』かしら? ちょっぴり渋みがきいているところが、最高に美味しいの!」
感想
今回は蜜柑のように酸っぱく、そして読後は爽やかなものでした。 心葉と、芥川君が友情を育んでいくシーンはドキドキしちゃいました。
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